イジワル上司に恋をして
…………あれ。どっかで、お会いしませんでしたか、わたしたち。
瞬きもせず、その端正な顔を見上げていると、その人は、ふっと柔らかく目を細めた。
「今日から、ここのブライダルの部長に配属された、黒川優哉(くろかわゆうや)です。よろしく」
その表情と声に、ぱちぱちと目を瞬かせる。
声を出せないわたしに代わって、香耶さんが口を開いた。
「あ。この子はショップの方の、鈴原なの花さん。でも、ほとんど手が空いてるときはこっちのこともやってくれてるの」
香耶さんが紹介してくれて、慌てて頭だけ下げた。
そして、目下にある黒い靴を、じっと見る。
「あ、黒川くんの場所はそこであってるから」
香耶さんの声に、靴が視界から外れても、わたしは顔を上げずにいた。
「……なっちゃん? 大丈夫?」
――――え? ちょっと、待って。
今の人って……今の人って――――。
『すげぇイタイ奴』。
そう言った、あの店の男じゃ……。
そーっと頭を上げて、少し離れたデスクで整理してる“黒川部長”を確認する。
――間違いない、と、思う……。
わたしが混乱してる理由。
それは、あまりにもあの夜の男と、今、目の前にいた男が、違う顔をしたからだ。
「……香耶さん」
「うん?」
「歓迎会……出ます……」
半信半疑のわたしは、少しの興味本位と自分の記憶を確認するべく、香耶さんにそう言っていた。