イジワル上司に恋をして

片側はソファの椅子だけど、そっち側にすわると店内が見えて、なんとなく見られてる感がしてしまうかも……と考えたわたしは、普通の一人掛けの椅子に腰を降ろす。
わたしは乾いていた喉を、出された水で潤した。

一番人気って書かれていたオムライスセットにしよう。

さっき見てきた看板と、手元のメニュー表を比べた結果、そうすることに決めた。
近くに店員さんが来ないかなぁ、と、店内を見渡していたら、「いらっしゃいませ」という声に反応してしまう。

ちょうど背中を向けていた位置にある入口に視線をやると、綺麗な女性が店内に入って来て――。


……え。あれって、もしかして……。


自分の目を疑った。近くも遠くもない距離にある入口から、目を逸らせずにいた。
だって、その女性のあとから入ってきたのは、紛れもなく……黒川だ。

〝黒川だ〟とわかってすぐに、視線を逸らして背を向ければいいものを。わたしはあまりに驚き過ぎて、そんなこともせずにあろうことか見入ってしまった。
となれば、さすがに他にもお客さんがいたとしても、その視線にヤツなら気付くわけで……。


「!」


明らかに、わたしを見つけると驚いた目を向けた。

……あの万年冷凍庫男でも、目に見えて驚くような顔をすることもあるんだな。

なんて、冷静な感想を上げつつ、一方では、『今ならまだ間に合う。店から出ちゃえ』という意見ももう一人の自分が挙げてきた。
だけど、実際にはタイミング悪く注文を取りに来た店員の手前、席を立つことなんか出来るわけもなく……。


「……オムライスセットを……ください」


あああ……! わたしのバカ!
今から注文して、オムライス食べてたら、黒川と滞在時間が丸被りじゃない!

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