イジワル上司に恋をして
「んー。どうしようかなぁ。せっかく運命的な再会したのになぁ。
職場が不都合なら、外で会ってくれる? 優哉、番号変わってるでしょ。教えて?」
「……いい加減に――」
「だったら、仕事中の優し~い優哉に会いにいくだけよ?」
うわ……。なんか、あの黒川が押されてるだなんて、大事件なんですけど。
それに、なんとなく、だけど。この女の人って、黒川よりも歳上だったりしないかな?
話してる感じとか、雰囲気とかが、余裕を感じられるし。
なにより話し方が、若干上からのような……。
完全に後ろの二人に全意識を取られていたら、突然「お待たせ致しました!」と真横から声が降って来て驚いてしまった。
半熟卵のオムライス。ふわふわトロッとしていて、絶対に美味しいこと間違いない。
けど、それを心から味わう自信がない。もはや、空腹よりも、気になることが背後にあるから。
それでも、運ばれてきたものに手をつけないのは不自然だ、と、スプーンを黄色の山に差し込む。
一口目を頬張る直前に、ガタンと椅子の音が聞こえた。
「優哉!」
そして黒川を呼ぶ声。少し慌てた様子の声に、咄嗟に顔を後ろに向けてしまった。
すると、予想通り、黒川だけが席を立っているところで……。
「休憩中だ。もう戻る」
伝票をかっさらうようにして静かに言い放った。
身を翻すようにして立ち去る直前に、黒川はわたしのことをちらっと見た気がした。
や、やっぱりバレてるよ……ね?
いまさらそんなことを再認識しつつ、ぎこちなく顔を元に戻してオムライスと向きなおした。
「また、ね?」
女性が「くす」っと笑いながら、最後に黒川にそう言っていた。
アイツが「ほっとけ」って言うくらいの相手って、よっぽど面倒な関係なのかな……。
余計なお世話ながら、頭でずっとヤツのことを考えているうちに、気付けば一緒にいた女性もいなくなっていた。