イジワル上司に恋をして

美優ちゃんの話に付きあっているうちに、頭では勝手にアイツの休日を想像しはじめていて。

ちょっと神経質っぽい見た目から、部屋は綺麗にしてて。
で、料理は……わかんないけど、朝から優雅にあの無駄に長い足を組んで、新聞を眺めてたりして。それで、インスタントじゃなくて、ドリップコーヒーなんて淹れて飲んでたりして。

そのコーヒーを淹れて運んでくれるのは……あの、昨日の人だったりして。

一瞬しか見えなかったあの女の人。しかも、店内の奥から入口という距離でちらっとしか見えなかったから、細部までは覚えてない。
それでも、遠かったからこそ、スタイルの良さとかは目に焼きついたし、近くで聞こえてきた声が〝イイ女〟風だった。


「いらっしゃいませ」


昨日のことを思い出していると、美優ちゃんの声が耳に入る。
それでもまだしばらく、昨日のことをぼんやりと回想していると、前に立っていた美優ちゃんの近くに人影が近づいてきたのがわかって顔を上げた。

白のブラウスに、鮮やかなブルーのシフォンスカート。ピンクゴールドの腕時計をはめた腕で、柔らかそうな髪を掻き上げながら、彼女は美優ちゃんに尋ねる。


「すみません。今日、黒川さんは……?」


「黒川」という名前。そして、その名を口にした、記憶に新しい声。
華奢な一粒ダイヤのネックレスから、視線を上に上げていく。

その人は、まさにわたしが今考えていた人に酷似していて――……いや。似てるんじゃない。……〝本人〟だ。


「あ……すみません。本日お休み頂いてます」
「休み? ……そう。わかりました、ありがとう」


美優ちゃんの返答に、淡々とした口調で答えると、去り際にわたしと目が合った。
たった一瞬のことなのに、キリッとした綺麗な目に捕まってしまった感覚が、彼女が背を向けたあともなくならない。

ヒールの音を鳴らして、颯爽と出ていった彼女が見えなくなっても、それはまだ続いていた。

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