イジワル上司に恋をして

「髪。食べてた。そんなにお腹空いた? なんて」


冗談を言いながら人差し指でわたしの髪を一筋掴むと、ぱらり、とすぐに手離した。


「……すっ」
「『す』?」
「……す、空きました……お腹」


この小さなドキドキ場面を、どんなふうにしていいのかさっぱりです、神様。
苦し紛れで、沈黙を回避すべく冗談に乗っかったわたしの発言に、西嶋さんはまた「ぷはっ」と笑った。


「顔。真っ赤だね」
「!!」
「そういうとこ、好きだな」
「――すっ……」


……き、好きって!! 好きって言われた!
いや、でも、この間も言われたけど、でも! 何回言われたって慣れることなんかないよ!

目の前でおかしそうに笑われても、どうしようもないし。
顔が真っ赤だと言われても、すぐに元に戻せる気もしないしで、わたしは黙ってただ俯いた。


「うん。じゃあ、近いし、あそこに行こうか」


コクコクッと頷いてちらりと視線を上げる。すると、少し首を傾げるように、わたしに優しい笑顔を向けてるのがわかって、思わずまた、目を逸らしてしまった。


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