イジワル上司に恋をして


結局、場所を変えることもなく。
なんなら、わたしはデザートまでしっかりと食べて、店を出た。


「あの、やっぱりいつもごちそうになるのは……」
「ん? でも、この間は出してくれてたでしょ?」
「そうですけど、でも」
「たまにさ。これくらいしなくちゃ。〝先輩〟として、ね」


無邪気に笑って見せる姿は、確かに先輩なんだけど。
先輩だとしても、そうじゃないとしても、甘え過ぎじゃないのかな? それとも、割り切ってしまうべき?


「それじゃ、今度はなの花ちゃんがごちそうしてくれる?」
「え? あ、はい。もちろんです」
「……なの花ちゃんて、昔からちょっと鈍いよね」
「に、にぶい……?!」


今までずっと優しい西嶋さんから、ちょっと驚きの発言で目を瞬かせた。
彼を見る限り、悪意は全くないみたいだから傷つくことはしなかったけど、少しドキドキしてしまう。


「おれ、今日、『なの花ちゃん』って呼んでたんだけど、気付いてた?」
「へっ?! あ……はい。その……メールから」
「……そっか。じゃあ、『今度はごちそうして』って言ったワケもわかる?」
「えっ」


ごちそうしてって言ったことなんかに、深い意味なんかある?
食事代を出してもらって、それが心苦しいから……っていうような話の流れから、自然にそうなったことじゃないの?

目を丸くして西嶋さんを見上げると、ふっと目元を緩めて柔らかく微笑まれた。


「……それはね。別に本当に奢ってもらいたいとかじゃなくて、〝次〟の約束が欲しかったから、だよ」

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