イジワル上司に恋をして
ドクン! と心臓が大きく音を立てた。
西嶋さんの言ってることと、彼の瞳の色が変わった気がしたから。
雰囲気が、ジョークを言えないものっていうかなんか、こう……とっても真面目な――。
「なの花ちゃん」
ピクッと体を強張らせてしまったのは、単純に名前を呼ばれたからじゃない。
待ち合わせのときと同じように、彼の手が、スッとわたしに伸びてきたからだ。
そして、その指先は髪に触れるでもなく、そっとわたしの頬に触れた。
「この前の話……考えてくれた……?」
ファミレスまで、全くそんな会話も素振りも微塵も見せなかったから。
でも、どこかでこの話をされるんだろうって思ってたから、正直ずっとどこかで緊張していた。
泳ぎそうな目を必死で堪えて、ゆっくりと彼の手から顔へと視線を上げた。
ドキンドキンとうるさい心臓。
本当は、まだどこかで悩んでる。
〝憧れ〟の彼と〝現実〟に付き合う彼氏って、違うかもしれない……って。
それでも、こんなにドキドキしてるんだから、きっと大丈夫。
決め手はそんな些細な理由で。
それがいいのか悪いのかわからないまま――……。
「は、い……」
「え?」
小さく返した言葉を聞き返されてしまって、また決心が鈍りそうだったけど……。でも、もう前に進むしかない。
「……はい。よろしくお願いします」