イジワル上司に恋をして
……まぁ、ね。
確かに見た目、いいし。肩書もいいし。
3人の女子に囲まれ、質問攻めされても、嫌な顔一つしないし。
むしろ、ひとつひとつ丁寧に話を聞いて、きちんと答える姿は好感度高いでしょう。
ものすごい、優しい雰囲気醸し出してる――――“今は”。
「久しぶりの同期との再会だけど、ゆっくり話してもいられないわ」
すぐ横を見ながら、香耶さんは少し淋しそうに笑った。
「……あの。すみません、わたし、ちょっとお手洗いに……」
「あ、うん。いってらっしゃい」
そんな香耶さんを置いて、わたしは個室をそそくさと出た。
パタン、と閉じた戸に後ろ手で両手をあてながら、「ふー」っと息を吐く。
……香耶さん、ブライダルの輪に戻れたかな。
天井を仰ぎ、心の中でぽつりと呟く。
別にショップの契約社員のわたしと、ブライダルの社員たちとが仲悪いとか、そういうのは全然ないんだけど。
でも、まるっきり同じように接してもらえて、同じような話が出来るかと言われたらそうじゃないし。
きっと、そんな微妙なほんのちょっとの距離を気遣って、香耶さんはわたしのところに来てくれたのかもしれない。
そう思うと、「ゆっくり話せない」と残念そうにしてる香耶さんに申し訳なくなっちゃって……。
靴を履くと、【toilet】の看板の矢印を見つけて歩き出す。
少し遠いトイレに辿り着くと、誰もいない空間で鏡と対面した。