イジワル上司に恋をして
「優哉」と黒川を呼ぶあの大人の女性が脳裏に浮かんだ。
すると、途端にわたしはなにも言えなくなってしまって……。
「……なに。柄にもなく、ヘコんだりすんの?」
『誰がアンタの言葉でヘコんだりなんか!』……そう頭で先に反論して、顔を上げた先に見えたのは――。
「西嶋さん……!」
覗きこむように、入口の向こう側からひょこっと顔が見えて、つい声を上げてしまう。
『しまった!』と思って思わず口に手をあてたけど、黒川にも気付かれてしまって……。
「……へぇ?」
「な、なんですか。どーせ、〝昨日のあの人〟みたいに女子力もないのに……とかって思ってるんでしょう? 大きなお世話ですっ」
「……『昨日の』?」
ヤツの目が大きくなった。それをみて、わたしは二度目の『しまった!!』顔をしたところに、入口のドアが開いた。
「こんにちは」
西嶋さんが現れたことで、当然わたしたちの会話は中断。
にっこりと営業スマイルを咄嗟に浮かべて、西嶋さんを迎え入れる。
「あっ。こ、こんにちは! お疲れ様です」
「なの花ちゃんも。お疲れさま。少し寄れそうだったから、ちょっと立ち寄っちゃった」
にこりと穏やかな空気に変えた西嶋さんが、わたしから黒川へと視線を移した。
「何度もすみません。すぐに戻りますから」
「……いえ」
な、なんか、この二人が会話してるときって、ドキドキしちゃうのはなんなんだろ?!
表面的には二人ともにこやかなんだけど、どうにも穏やかになんていられない。
すると、背を向けていた黒川が、ちらりとわたしに視線を向けて片眉を僅かに上げた。
そして再び西嶋さんへと向いてしまう。
「ああ。突然ですが、お茶はお好きで?」