イジワル上司に恋をして
突然黒川が投げかけたひとこと。
意図が読めない言葉に、目をぱちぱちとさせてしまった。西嶋さんも、若干驚いたようで、不思議そうな声で答える。
「……お茶、ですか?」
「鈴原は、お茶が好きみたいで。聞いたりしたことありますか? 彼女の淹れるお茶はなかなかで。もしお好きなら、鈴原にお勧めの茶葉を教えてもらったらいかがです?」
……なっ、に、を……!!
何を言うんだ! コイツは! どういう意味があって、そんなことを!
しかも、単純に褒められてるかも定かじゃないし! わたしにしたら、ちょっとした嫌味にも聞こえる気がして、両手放して喜んだり出来るわけないし!
あれから振り向くことをしない黒川の後頭部を呆然と見上げてたけど、ジロリと睨みをきかせる。
「……いいえ。じゃあ、これからそんな話も彼女から教えて貰えるんですね。お茶をごちそうしてもらうのも楽しみになりました」
そう言った西嶋さんは、にっこり笑顔をわたしに向けて。
思わず背筋が伸びて、頬を赤らめると、気のきいた返しもできない。
「あ。じゃあ、僕、行きますね。ちょっと顔見たくなっただけなので。それじゃ、なの花ちゃん。また連絡する」
「え? あ! は、はいっ……」
手をひらひらっとさせて、あっという間に去って行ってしまった。
それを、なぜか黒川と見送る羽目になったこの状況。どうか、そのままこっちを振り向かないで欲しい……っていう願いは叶うわけもなく。
ゆっくりと振り向いた黒川と目が合う。
ドキリとして、つい目を泳がせた。
目を合わせてなくても、視界にはヤツのブルーのネクタイがチラついて、落ち着こうとしている心を掻き乱す。