イジワル上司に恋をして
「そういうこと、か」
「な、なにがですか」
「しらばっくれても無駄だ。いつも言ってんだろ? オマエはわかりやすいって」
その言葉に、顔を上げてしまった。
蛇に睨まれた蛙? 合ってるのかわかんないけど。とにかく、わたしは黒川の視線に捕まって身動きが取れない。
嘲笑うこともせず、かと言って、『関係ない』とここを立ち去ることもなく――。
無表情の黒川から目が離せない。
ヤツはなにを考えているのか……。なんで、まだわたしを見て、そこにいるの?
べつにわたしが誰と話そうが、付き合おうが。コイツには全く関係ないわけで。……仕事中にさっきみたいに、会いに来てくれて話をするのはいけないことかもしれないけど。
でも、そこまでわたしが気にすることなんかないはず。なのに、この場に居づらい思いになってしまうのはなんでだろう……?
ヤツの視線に負けそうで、つい、この空気を打開したくて強がってしまう。
「じ、自分だって、あのキレーな女の人と仲良くしてるじゃないですか!」
……自爆。
自縄自縛って、こういうことかもしれない。
黒川の目がなんか怖くて、どうにか切りぬけたかっただけなのに。わたしの言葉に、明らかにヤツは反応してしまった。
ピクリと眉を一瞬潜め、今は、さらに距離を詰めてわたしを見降ろしてる。
綺麗な顔立ちだから余計に迫力ありすぎて、逃げたくなる。
ゴクリ、と唾を呑み、恐る恐る向こうの出方を待つと、表情も変えずに低い声で言った。
「妬いてんの?」