イジワル上司に恋をして
「あ、見えた」
「えっ?!」
ちらりと通路側に座る西嶋さんに目を向けたタイミングで、彼が窓側のわたしに寄り添うように近づいて言った。
ドキリとしたわたしは、思わず体を離して顔を上げる。
でも、彼の視線は窓の外――。
「ほら、なの花ちゃん。富士山」
――かと思えば、すぐにわたしに視線を移されて。
その、不意に向けられた目を優しく細めた笑顔が直視出来なくて、くるっと窓の外へと顔を向けてしまった。
「あ、ああ! 本当だ!」
なるべく自然を装って、窓から富士山の白い頭を眺めて言った。
だ、大丈夫だよね? 嫌な感じになってないよね? わたしの態度。
付き合い始めって、こんな感じだったっけ? それももうだいぶ前のことだし、しかも学生のときだったから、大人になってからの〝お付き合い〟の普通がわかんない!
自分でオーケーしたくせに、体が触れるくらい近づかれると少し距離をとってしまう。
「もうすぐ着くよ」
……でも、そんなことすらも、気にし過ぎなのかな? わたし……。
柔らかな太陽の光を纏うように、西嶋さんは微笑んだ。