イジワル上司に恋をして


それから、江ノ島を散策しながら食べ歩き、めいっぱい観光しているとあっという間に時間は過ぎた。

夕方4時頃になると、少しだけ風も冷やりとしてきた気がして、自分の腕を軽くさすった。


「寒い?」
「あ、ううん。大丈夫です」


少し離れたところで、港にあるヨットを眺めながら休んでいた。
水族館も散策中も、常に人でいっぱいだった。だから、今、周りにはほとんど人がいないことにほんの少しほっとする。


「休みって、あっという間に終わるな」
「……本当ですね。あーあ、明日からまた仕事かぁ」


手すりに腕を乗せながら、口を尖らせて言う。
隣の西嶋さんも、そこに手を預け、右手で頬づえをついていた。


「……そうだね」


陽の高いときよりも、少し暗く反射する水面を眺めていると、ぽつりとした返事が聞こえる。
それからは、少しお互いに口を閉ざして。
風と海の音を心地よく耳に入れながら、横にいる西嶋さんはどんな顔をしているのだろうと、ふと気になってちらりと盗み見る。

すると、偶然にも彼もこちらを見てしまって、ぱたりと目が合った。

一日一緒に居ても、やっぱり慣れることなんかない。
目が合っただけでどうしていのかわからないわたしは、目を泳がして会話の糸口を探る。
話題がなにも浮かばないうちに、やはり先に開口したのは西嶋さんだ。


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