イジワル上司に恋をして
「……なの花ちゃん」
その呼び声にハッとして焦点を西嶋さんにあて直す。
じっと見つめられて、わたしたちの間を風がすり抜けていく。
……もしかして――。
その先のことを、一人先走って想像しては頭の中でパニックになっていた。
もしかしたら、そんなわたしの頭の中を見透かされたのかもしれない。
「お店も閉まってきたし、帰ろうか」
ふっと口元を緩め、いつもの笑顔で言うと、頭の上にポンと手を置かれた。
それから、掬い取られるように手を繋がれた。
今日一日、ずっと手を繋いでいたけど、やっぱり未だに慣れなくて落ち着かない。
家まで送ってくれた道のりずっと、話はしてたけど上の空。
前まで脳内でいろんなことを考えてた中には、帰り際に『お茶でもどうですか』なんて、自分から誘うシーンを思い描いたりしたものだけど……。
現実にはそんなことすら忘れてて。
自分の部屋に足を踏み入れた瞬間に、すっと肩の力が抜けて床に寝ころんだ。
そのタイミングで、カバンにしまってある携帯が鳴った。
……誰? もしかして、西嶋さん?
一度脱力してしまったわたしは、のろのろと起き上がりカバンを引っ張り寄せる。
ごそごそと中から携帯を取り出すと、着信の主に思わずホッと安堵の息が漏れた。