イジワル上司に恋をして
『はあぁぁあ?! そんなに色々あって、どーして今までなんの連絡もしないのよっ』
スピーカーから、音が割れるくらいに。由美が大きな声を上げた。
「ご、ごめん……だって。テンパり過ぎて、そこまで頭になかったっていうか……」
『あーあー。なるほどね。それも一理あるわ』
その理由に納得されるのもなんだか微妙な気もするけど……。
そう思ったのは口に出さずに、一通り説明を終えたわたしは由美の言葉を待つ。
『まー……初めてのデートは誰だって余裕ないんじゃない? そんなに違和感あったの? 今日』
「うーん……違和感ていうのか、なんなのか……こう……集中出来ない、とでもいうか……」
『なに? いつキスされちゃうのかなー、とか考えて?』
「ばッ……! そ、そうじゃなくて! ……それもちょっと……なくはなかったかもしれないけど」
ごにょごにょと語尾をごまかして答える。
すると、由美が少し黙って考えたあとに言った。
『……そう。わたしなら、そんなことばっかり頭にあったけど。じゃあさ。具体的になの花は今日、なに考えながら過ごしてたの?』
「えっ?」
具体的に? なに考えて……って。
携帯を耳にあてたまま、天井を見上げるようにして考える。
今日、待ち合わせしてから、帰って来るまでの自分の思考。改めて思い出すと、詳細なことまでは覚えてなんかいない。……けど。
「……あ」
思い当たることと言えば、あのムカツク男の存在ってわけで。
腹立たしい言動と行動。それと、謎な部分がほんの少し気になって……。