イジワル上司に恋をして
『なに?』
「や! いやいや! 全然関係ないことだった!」
『はぁ? 「全然関係ないこと」を今考えるわけないでしょ! いいから言いなさいよ!』
「えぇー……」
『なの花』
「……はい」
本当はまた思い出すから言いたくないんだけどな。
「はぁ」と溜め息を漏らし、膝を抱えて座り、前後に体を揺らしながらぽつぽつと答える。
「なんかさ。最近、腹黒部長のキャラが強烈すぎるのか、そいつがいないときまで、いちいち今の自分の行動に頭の中でも文句言われてる錯覚に陥っちゃって……事実、言われたことを思い出したり、言われそうなことを想像してたり……」
そうなんだよね。実際口に出すまで認めたくなかった感じなんだけど。
常にアイツに監視されてるような、すぐ近くにいるような。それが原因で集中できないっていうか。
「いるはずないときにでも、顔色窺うような心境っていうかね」
私生活にも影響を及ぼすほどの存在感に、わたしはまだ気付いてなかった。
……由美に指摘されるまで。
『……なの花? それって、〝仕事上の指摘〟の想像?』
「え……?」
『それとも、もっと他の内容じゃなくて? ……だって、デート中の行動なんて、仕事にそんな繋がらないでしょ。その行動に、頭で文句言われてる、ってどんな内容なワケ?』
どんな内容って……。
ただ、小馬鹿にされるような……『コドモ』だと笑われたこととかそんなことだったと思うんだけど。
そうして不意に頭に蘇ったあの言葉。
『ああ。妬いてるよ。オマエを翻弄させるのは、オレだけだと思ってたのに』
途端に、体温が一気に上がって、脈にも動揺がみられてしまう。
な、なに、これ……。
『今聞いただけだから、よくわかんないけど』
なんで、こんなに全身が反応するように……!
なんで、あんなヤツの声と顔が鮮明に――。
『その部長って人のこと、気になってんじゃないの?』
――ドキリ、とした。
なんでかはわかんない。
だけど、由美にすぐに反論しようにも、言葉がなかなか出なかった。