イジワル上司に恋をして
「予行練習」


ぼんやりと商品の整頓をする。
今朝から、「鈴原さん、具合悪いんですか?」と、美優ちゃんに指摘されるくらいに、わたしはいつもと違ってたのだろう。

それでも、油断するとすぐにこんな感じで、ボーッとしてしまう。

カタン、と丸い缶を上に積んでは、「ふー」と息を吐く。


「恋煩い」


急に聞こえた声に、カラン! と商品の缶を床に落としてしまう。カランカラン、と音を鳴らしながら円を描くようにして、足元に転がった。
慌ててそれを拾い上げようと手を床に伸ばしたところに、濃紺のスーツが見えた。

商品を手に取り、その足からゆっくりと上へ顔を上げる。
今は特に顔を合わせたくない相手だから、喉元辺りで視線をふいっと横に向けた。


「うまくやってないの」
「……ご心配なく」


ボソッと、わたしにしか聞こえない声量で話し掛けてくるのはいつものこと。
その、無駄に色っぽい声も、いつものこと。


「ふーん。じゃあ、〝卒業〟したの」
「そ……つ……? ばっ、バカじゃない! セクハラ!」
「っは! いまさら。妄想女子のハジメテはどんな感想だったのかと思ったんだけど」
「ハジメテなんかじゃ……!」


ヤツのスタンスは変わらないのに、相変わらずわたしばかり翻弄されて、思わず声を荒げてしまうほど。
それに気付いて、どうにか気持ちを落ち着ける。
そして、トーンを落とすように心掛けて、平静を装って言った。

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