イジワル上司に恋をして

「……ご期待に添えるような展開は、なにもありませんから」


って、なんでこんな報告しなくちゃなんないのよ。
業務連絡かのように! だけど、初めてとか……そういうふうな目で見られるのがなんかヤだったから!
そこだけ否定したくなって!


「は? 『なにも』?」
「なんですか。それがそんなにおかしいですか」
「……いや」


キッと睨みつけるように見上げると、小馬鹿にしたような顔でもしてるかと思ってたのに。
全く想像もしてない、心から驚いたような黒川の顔。


「……ガキのお前に合わせたんじゃねーの?」


だけど、その顔を隠すようにヤツはすぐに身を翻し、そんな嫌味をひとつ吐いて離れようと一歩踏み出したときだ。


「優哉!」


その名を呼ぶ声に、わたしも黒川も同時に振り向く。
瞬間、ふわっとスカートを浮かせ、艶やかな髪を靡かせて駆けよるあの人が目に飛び込んだ。

今にも触れてしまいそうなほど黒川に近づいた彼女は、くすくすと笑いながら黒川を見上げる。


「……来ちゃった!」 
「……お前」
「仕事の邪魔はしないわ。ただ、少し話しにきただけよ」
「話? っは! オレは別に話なんかないけどな」


毒々しい言葉と凍りつくような態度。
この前も遭遇したけど、目の当たりにしたら、まるで自分が言われているかのようにぞくりとする。

なのに、この人はそんな強張った表情を微塵も見せずに。


「私だって別にないわよ? ただ、会いたかっただけ」


さらりと交わすように、大人の笑顔で黒川に言った。

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