イジワル上司に恋をして
「あいにく、オレは会いたくないんで」
うわー……。冷たい。冷たすぎる。
こんなに綺麗な人なのに、全然その辺は揺らがないんだ。一体この二人って……?
思わず凝視してしまっていたわたしに、さすがに彼女も気付いてしまって目が合う。
そして、ふっと目を細めて妖艶な笑みを向けられると、同性なのにそれだけでポーッと顔が赤くなってしまった。
「そう。あ、わたし、この子にも用事があってきたの。ね?」
「えっ!」
な、なに?! どーいうこと?!
唖然としてその場に立ちつくしていたわたしの腕に、軽く絡みつくようにしてその人は突然言った。
「この前もここに来た時に、少しお話してたのよ」
いやっ! それは、わたしじゃなくて、美優ちゃんじゃ……。ていうか、どっちにしても、黒川の所在を聞かれただけで、それ意外はなにも話なんてしてないんですが!
「優哉、今日は忙しそうだから、戻ってもいいわよ? わたしはまた、いつでも来れるし」
最後の言葉の言い方が、無関係のわたしでもゾクッとした。
何だろう……なんなんだろう、この人。
どうして常に、そんな自信があるような振る舞いで……。確かに、容姿からはかなり自信持ってもいい感じなのはわかるけど……。
黒川とずっと視線を交錯させてるその人を、ちらりと横目で見上げてみた。
口元には笑みを浮かべたままで、黒川の出方を窺ってるみたい。
向かいに立つ黒川に、今度は視線を向けてみる。
コイツもコイツで、いつもと同じように一切表情変えずにいるもんだから、なにを考えてんのかさっぱりだ。
しばらくして、ふ、と一瞬だけ。ヤツの視線がわたしに向けられた。
それから、なにも言わないまま、あろうことかこの人をそのままに、背を向けて立ち去りやがった。