イジワル上司に恋をして
――しっ……信じらんない!
普通、この状況で、匙投げてわたしに丸投げしたままにする?!
あンの、鬼! 悪魔! 性悪っ!!
穴があくほど怨念を込めてヤツの背中を睨みつけてやったけど、全っ然届いてないらしい。
あの無神経男が!
思わず舌打ちをしてしまいそうになったときに、するりとわたしの腕から手を離した彼女が口を開いた。
「突然ごめんなさい。あまりに悔しくて、強がりを言っちゃったわ」
「あ……い、いえ」
「強がり」? 本当にそうなのかな。なんか、そんなしおらしい感じには受けられなかったんだけど……意地っていうのか、負けず嫌いみたいな……。
「だけど、あなただったからこんなふうに巻き込んでしまったの」
「……は?」
「だって、あなた……優哉の彼女でしょ?」
「――――はぁあ?」
つい、店員とお客さんという立場を忘れて、心に正直に声を上げてしまった。
誰が、誰の彼女ですって??
なーんで、そういう話になるのよ! 本当、意味不明! まさか、アイツがあることないこと吹き込んだんじゃないでしょうね?! この人をあしらうためとか言って!!
わたしの反応を見た女性は、目を丸くして固まっていた。
美人のそんな顔は初めて見たけど、やっぱりどんな顔しても美人は美人だということがわかった。
「……え? 違うの?」
「違いますっ。どうしてそうなるんですか!」
「わたし、てっきり……。だって、今も、あなたがいる前なのに、あんな態度を見せるから」
「それだけで、なんで〝彼女〟だなんて……」
「普通に考えたらそうならない? 前にここで会ったとき、他の従業員の前じゃ、優哉ったらすごい優しいのよ? それを、あなたの前だけ――……」