イジワル上司に恋をして
「……悪い」
たったそれだけの、ひとこと。
……わ、「悪い」ってなに? 今、手ェ出しちゃったから、とかってこと……?!
頭ん中はそればっかりで。
すると、香耶さんが答えた。
「前と……違う言葉……だね?」
「前と違う言葉」? 前はどんなふうに断ったんだろう。
ていうか、黒川のやつ! よく、こんな素敵女子の香耶さんを振るな! しかも二度も!!
どんな好みして……あ。
そこまで思ったときに、脳裏に浮かんだのは吉原さん。
そうか。そうだよ。アイツのタイプって、ああいう知的美人なんだ。
ちょっときつそうな女の人がいいのかも。だったら、香耶さんは本当に優しい雰囲気だし、そこがちょっと違うのかも。
頭で吉原さんと香耶さんを並べて勝手にそんなことを考える。
そのとき、ドアの向こうで香耶さんが言う。
「別に責めてるわけじゃなくて……『彼女はいらない』って即答していた黒川くんから変わったんだ、と思っただけよ?」
彼女はいらない……? って、言って振ったんだ。
うわ……それってどういうこと? 特定の彼女はいらない。遊べる相手なら歓迎みたいな? やっぱサイテーだな、黒川め!
ここでも勝手な解釈をして、勝手に黒川に怒りを向ける。
「……でも。変わっても、わたしはやっぱりダメみたいだね……」
「2度も真正面から言ってくれた仲江だから、正直にいうけど」