イジワル上司に恋をして


お昼休憩の時間だ。
ショップの人員が一人というシフトのときは、ブライダルから休憩時間だけ応援にきてくれる。
ひとりのスタッフさんが来てくれて、わたしは無事に休憩に入った。

出勤途中で買ってきたパンをテーブルに置いて、コーヒーを淹れる。
いつもならココアとか甘めのものを用意するところだけど、今朝のことがあってすっきりしないから、ブラックコーヒーにしようと思った。

滅多に飲まない、ブラックコーヒー。
その苦さで、少しは気分が変わるかと思ったわたしは、熱そうなコーヒーにそっと口をつけた。


「にがっ……」


せめてミルクでも入れたいと思ってしまうくらいに、わたしにとっては苦いもので。
けれど、なんだか食欲もないから、パンもコーヒーもそのままで。結局ほとんど口にすることなく休憩も終わり、時間だけが過ぎていった。

幸い、その日は来客や会議なんかで忙しそうなあの男と話すことはなくて。
閉店作業も素早くこなして、逃げるようにショップを後にした。

ロッカー室に入ると、ようやくホッと一息ついた。

……だけど、結局明日も、その次の日も……ここにいる限りは避けられないんだよね。
わたしが辞めるか、アイツが異動かなにかにならない限り。
でも、アイツが異動してきたのなんて、今月の頭……まだひと月くらい。普通に考えて、どうにかなるなんて考えられない。

なにか、事件でも起こさない限り――。

自分がされたことを公表でもすれば、アイツはクビ……どころか、警察に捕まるのかもしれない。

なんて、そんなことまで想像していたときに、携帯が振動してハッと我に返る。
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