イジワル上司に恋をして
――ばっ、バカ! なに考えてんの!
確かに、アイツのしたことはそういうことだし、事実だけど! そこまでさすがに大事になんかする気も起きないし!
ていうか、そんなことした後のほうが怖いわ!
脳内で一人突っ込みをしていると、止まらない振動にまたハッとしてやっと携帯をポケットから抜き取った。
慌てて画面を見てその電話に出る。
「あ! もしもし! す、すみません。出るの遅くて……」
『んーん。今、終わったところ?』
「あ、はい……」
気を取り直して電話で話をしてる相手は、もちろん西嶋さん。
彼は、本当にマメに連絡もくれるし、いつでも穏やかで優しい雰囲気だし……世に言う理想の人だと思った。
『そっか。お疲れさま』
「あ、はい。ありがとうございます。西嶋さんも、お仕事終わりですか……?」
ロッカーに背を向けて、少し俯きながら答える。
もし、『今から会わないか』って言われたら、どうしよう。
確かに用事があるわけじゃないけど、でも、なんだか……そういう気になれない。
ズルイわたしがそんなことを考えていると、耳元で聞こえた言葉に胸を撫で下ろす。
『いや。今日残業だから、今、夜ご飯なんだ』
「あ……そう、なんですね。遅くまで、お疲れ様です」
『うん。ありがとう。なんか、頑張れる気がする』
「えっ」
さらりと言われた言葉だったけど、確かにわたしの胸にはちくりとした感覚が走った。
自分は、〝そういう気になれない〟って思ってたのに、彼は〝頑張れる気がする〟って感じてるなんて……あまりの違いに戸惑ってしまう。
落ち着きなく、視線を彷徨わせる。
『なの花ちゃんも昨日疲れてたみたいだね? 大丈夫?』
「昨日……」