イジワル上司に恋をして
一瞬で、昨日から今朝の出来事がフラッシュバックしてしまった。
悔しいのに、負けたくないのに。
でも、事実、ここ数日のわたしの頭はアイツのことでいっぱいだ。
『なの花ちゃん……?』
「あ……あ、だ、大丈夫ですよ? 全然。ほら、いつも通りです」
ふ、不自然と思われたかな……。
固い声色で、空元気のように答えたあとでそんなふうに思ってももう遅いんだけど……。
ドキドキと、スピーカーの向こうの西嶋さんからの反応を待つ。
よく耳を澄ますと、さっきまでどこかコンビニでも行っていたのか人の声や車の音なんかが聞こえてたけど、今は会社に入ったのか静かになってる。
『……そう。あ、ごめん、もう着くから。また』
「あっ、は、はい!」
廊下だったのか少し響く声で言われると、そのまま電話を切った。
待ち受け画面に切り替わったのを確認して、「はー」と深い息を吐く。
やっぱり、未だに緊張してるのかも。さっきのも、ヘンに思われてなければいいけど……。
脱力し、しばらく放心したあとに、ゆっくりと着替え終えた。
裏口から出るときも、周りの様子を窺うことを怠らず。
さぁ、ヤツに会わないうちに帰ろう! と、意気込んでドアを開けたときだった。
ザアァァ、と響く雨音と、冷やりとした空気。
……しまった! 雨だった! すっかりそのこと忘れてたよ!
傘、ロッカー室じゃない!
がっくりと肩を落とし、半分開けたドアを閉めようと思って手を引きかけた。
「あ! 待って!」
その声にピタリと手を止めた。