イジワル上司に恋をして
早く立ち去りたい一心で、思い切り振り返ったその直後の衝撃に声を上げてしまった。
ぼふっとした感覚が顔面に感じて、反射的に目を瞑る。
目を閉じてても、それが誰かとぶつかってしまったことはわかるから、鼻を抑えながら慌てて謝罪する。
「すっ、すみません!」
鼻がぶつかってしまったから、ちょっと涙目、涙声で。
うわ。すごい恥ずかしい! このぶつかった人に対しても、後ろで見てるはずの吉原さんに対しても!
そう。それは、ドアが閉まる前の出来事。そして今も、反動で退いてしまったわたしの背にドアが開く感覚がある。ていうことは、ドアは開きっぱなしだ。
俯いていた顔をゆっくりと上げ、薄らと目を開く。
視界が鮮明になる前に、背中からの吉原さんの明るい声を聞いて心臓が止まった……かと、思った。
「優哉!」
ぬ、ぬぁんですと?! ま、まさか……。
そろりと完全に目を開け仰ぎ見ると、いつもと同じクールな双眼がわたしを見ていて……。
「なにしてんだ、タコ」
「……くっ……」
黒川……!
まさかの、ご本人! なぜこのタイミング!
いや、待って。これはちょうどいいのでは……! 吉原さんはコイツを待ってたわけだし。ていうことは、この二人が一緒に帰っていくだろうし。そしたら、わたしはなんの関係もなく、傘を取って無事帰宅!
なんだ、解決!