イジワル上司に恋をして
ぱぁっと明るい顔をして、やけにニコニコと笑顔を浮かべたわたしは、黒川の前を避けながら言った。
「あ、どーぞどーぞ。吉原さんがちょうど……」
へらへらとしながら、黒川が外に出るのを待つようにドアに手を添えた。
けれど、一向に前に歩を進めない黒川にやきもきして、ジロッと目を向けたと同時に信じられないことが起こる。
「なに遠慮してんの? オマエが先約だろ」
つらっと涼しい顔で言いのけて、わたしの腕をガシッと掴み、外へと連れ出される。
バッと、黒い傘が開かれると、当たり前のようにわたしを引き寄せた。
「悪いけど、そういうことだから」
ちょ……ちょっ、ちょっと?!
なにがどう、「そういうこと」なわけ?!
あんぐりと口を開けていると、横から吉原さんの落ち着いた……でも、少し怒りを感じさせるような低めの声が耳に入る。
「わたしの性格は、優哉が一番よく知ってるんじゃない? こんなふうにしたって逆効果だ、って」
足を止めた黒川に合わせて立ち止まり、吉原さんを見た。
綺麗な顔の人が真顔でなにかを真剣に言う姿というのは、ぞくりとしてしまうほど怖いんだ。
息を呑むように彼女から視線をずらせずにいると、隣の男は動じることもしてない様子で答える。
「今でも変わってないな。思わせぶりな態度をするのは」
「っていうことは、気になってるって解釈(こと)でいいかしら」
「黙れ。行くぞ」
話の途中で黒川は一方的に中断させて、吉原さんを置いて行った。
背中に痛いほどの視線を感じる。
ちらっと横を歩く黒川を見上げてみるけど、コイツは大して気にも留めずにいるようだ。