イジワル上司に恋をして

一体、二人はどんな関係なんだろう。
いや、たぶん……男女の関係はあったよね。吉原さんの態度や言動がそんな感じさせてる。

けど、元カノだからって理由でこんなに冷たくあしらう?
なんかきっと、他にも原因はありそう。この男に、輪を掛けて冷たくさせる理由が……。


そこまで考えているときに、ふと気付いた。


「ちょ、ちょちょちょっとっ……! 手、手、手っ!!」


黒川の左手が、わたしの肩を抱いてることに……!

どさくさに紛れてなにするんだ、コイツめ!

キッと睨みつけると、黒川は「フン」と鼻で軽く笑って手を離す。
わたしは肩にまだ、ヤツの手の感覚を感じつつ、上ずった声で抗議する。


「なにを勝手に……!」
「オマエがこの前、〝助けろ〟っていう主旨のこと言ったから、助けてやったんだろ」
「そっ、それはそうだけど……」


元々誰のせいでこうなったと思ってんのよ! なのに、なんで上から目線なのよ!

ムカつきながら、コイツの近くからすぐに立ち去りたいと思いつつも、生憎の大雨。
いつかの日を思い出すような……。

あの日。黒川と再会した、雨の日。
あのときから、コイツはずーっと変わらずに、高慢的な男だ。
綺麗な顔立ちを武器にして、口を開けば失礼なことばかり言って。

それは、出会ったときから今日まで、変わってない。
そう、思ったんだけど……。

無言になって、信号で立ち止まったときに目に入ってしまった。


……コイツ……、右肩が、濡れてる……。


水たまりの音を上げながら通過していく車。
その派手な音に混じって、ヤツが言った。


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