イジワル上司に恋をして
「オレが連れていく」


ピピッという電子音で、重い瞼を再び開ける。
若干霞んでる視界に映る数字をみて項垂れた。


「37度7分……マジですか」


ぽつりと誰もいない部屋で呟くと、キシキシ痛む関節に顔を歪ませながらソファを立った。

うーん。平熱はそこまで低くないから、なんとかなるような熱だとも思うけど……。でも、他の人に移したら大変だよね……あ、マスクすればいいかな?

シフトに目を落とすのはもう3度目。
昨日と今日は美優ちゃんの希望休だ。必然的に、ショップはわたししかいない。

その代わり、明日が休み……よし、頑張るか。

ふらりとした足取りで薬箱から解熱剤を取り出すと、水で一気に流し込む。
食欲なんかもちろんないわたしは、薬が効くことをただ待ちながら出勤の支度をした。

会社に着くころには、いい具合に薬が効いてきたようで、体も思考も軽くなってた。


「あれ? なっちゃん、風邪?」
「あ、えぇと。ちょっと軽く咳が」
「大丈夫? そうよね。この間も調子悪かったんでしょう?」


この間……。

香耶さんの言葉に誘導されるように、あの医務室のことを思い出す。


「や! だ、大丈夫だと思いますから! 明日は休みですし!」


慌てて思考を現実に引き戻そうと、声を張って笑顔を作る。
「きつくなったら言ってね」と、香耶さんはいつものように優しい言葉と笑顔で事務所へと行ってしまった。

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