イジワル上司に恋をして
……正直、香耶さんの顔もまともに見れない。
昨日、香耶さんが黒川に告白して、振られた。それも、初めてじゃないらしい。
ただでさえ、告白なんて勇気のいることだと思うのに。それを、二回、同じ相手に。
どれだけ傷つくだろう。どれだけ惨めな思いをするんだろう。
しかも、相手が同期で同僚……しばらく異動の予定はナシ。
毎日のように顔を合わせる人だから……一体どういう心境なんだろう。
ガラス越しに、サロンに出てなにやらしている香耶さんを見つめ、勝手に切ない思いになってしまう。
すると、何食わぬ顔で黒川が香耶さんになにかを話していて唖然とした。
いや……でも、それが普通だよね。
社会人だし、まして、男の方が態度に表すだなんて、言語道断だよね。
はたから見て、二人は何事もなかったかのように、いつもと同じ。
それでも、事情を知ってしまったわたしにだけ、ほんの少し……香耶さんの笑顔が淋しそうに見えるのかもしれない。
仕事の手を止めたまま、無意識にガラス越しの二人に集中していると、パッと香耶さんと黒川がこっちを見た。
……ヤバ。視線に気付いたのかな?
ふいっとさりげなく顔を逸らし、品出しを続ける。
どうか、変なふうに思われてませんように。
そう心で強く念じながら、ダンボールの中の商品に手を伸ばす。
俯いた姿勢のときに、後ろから声を掛けられた。
「不調、だって? 仲江から聞いた」
顔を上げなくてもわかる声に、わたしは目も合わさずにぼそりと答える。
「……いえ。少し、咳が出るくらいですから大丈夫です」
けほっと咳を交えながら言った言葉に、少しの間の後ヤツが言う。
「……あの雨に濡れりゃ、当然だろ。バカ」