イジワル上司に恋をして
……あんたがわたしを無理やり連れ帰るからでしょ。ロッカー室に行けば、自分の傘があったんだから。
胸の中で言い返しつつ、体調不良からか強く出られないわたしは素っ気なく返した。
「肩を濡らしたからとかって、スーツ代請求されるのイヤだったんで」
「本気で言ってんの? スーツ代請求って? 随分と卑しく思われたもんだ」
「……ミーティングの時間ですけど」
時計を見て言うと、じっとわたしを見てから黙って踵を返して行った。
「ふぅ」と息を吐いて棚に手を乗せ寄り掛かる。
「あのまま一緒になんかいられるわけないでしょ……」
ぽつりと思わず口から出た。
昨日。わたしは、あのあとアイツの傘から飛び出した。
黒川は、その時わたしを呼び止めもしなかった。雨の音と、心臓の音がうるさくて周りの音はほとんど無だったけど……そう思う。
あの瞬間に自覚した感情に、自分自身ついていけなかったから。
あのままアイツと二人で並んでたら、どうにかなってしまいそうで怖かったから。
だから、逃げた。
「……けほ」
……おかげで、風邪を引いたけど。
夜は熱のおかげで、余計なことを考えずに済んだとすら思えたわたしは、重症だ。