イジワル上司に恋をして


「……ん。……あれ……?」


ぱちりと目を開ければ、アパートとは違う蛍光灯。
自分のものとは違う、固めのスプリングの感触が背中にあって、少し痛みの残る頭を懸命に働かせた。


「なにが『大丈夫』だ、バカ女」


ぬっと視界の右から現れた顔に、思わず体を起して膝を抱える。

バクバクと暴れる心臓を鷲掴みしながら、目を大きくして仰ぎ見る。


「く、くろか――」
「ホラ」
「え」


その名を口にし終える前に、銀色のフィルムに包まれた2錠の薬を軽く放られた。
真っ白なシーツにぽとりと落ちたソレに視線を落とすと、頭上から声が降る。


「飲んでいけ。ついでだから」


解熱剤……。


「それとも、口移しで飲ませてやろうか」
「けっ、結構です! ばかじゃないっ!」


寝たからか、少しはラクになったし寒気はなくなったけど、まだちょっと熱っぽい。
だけど、このくらいの反論は出来るように回復したみたい。


無言で差し出されたペットボトルの水をしぶしぶ受け取り、ヤツの見守る中で薬を胃に流し込む。
きゅ、とふたをしめつつ、ちらりと黒川を見上げた。


「……仕事はいいんですか」


こんなとこで、わたしなんかに構ってるヒマないでしょうよ。
っていうのと、またもや医務室でふたりきりっていうのがどうしても落ち着かないから、早く居なくなってほしい。

ここまで運んでもらっておいてふてぶてしい態度で言ったわたしに、黒川は無言のまま親指で掛け時計を指した。

< 234 / 372 >

この作品をシェア

pagetop