イジワル上司に恋をして

「びっくりした……! 本当に……」


その言葉を聞かずとも、西嶋さんの顔を見ればすぐにわかる。


「もうこの通り大丈夫です。まだ、ちょっと熱があるけど。ほんと、すみません……」


小さな声で、ぺこりと頭をさげつつ言うと、携帯の持たない方の手を取られた。
顔を上げると、真剣な眼差しの彼が言う。


「タクシーで帰ろう」


元気があれば、タクシーだなんてって断るけど……ああ。元気がないからタクシーなわけだよね。もうなに考えてんだかわかんないや。

ただ促されるがまま、手を引かれて正面玄関から外に出る。
タクシーは常時停まっているからすぐに乗り込めた。

わたしが行き先を告げると、グン、とタクシーは走り出す。
ここからアパートまで、タクシーを使えばおそらく15分程度だろう。
そう思っていたけれど、実際はそれ以上に長く感じて。

それは、西嶋さんが道中ひとことも口を開かなかったのもひとつの原因かもしれない。

キッとタクシーが止まって降車する。
西嶋さんはどうするのかな? と思っていたけど、やっぱり一緒に降りていた。

部屋まできっと、送ってくれるつもりなんだよね。
あれ……部屋、どんなだったかな。そんなに汚くなかった気がするから大丈夫かな。

あれこれ考えているうちに、すぐに玄関前に辿り着く。
カチャリと鍵を開けドアノブを回し、少しドアを引きながら後ろにいる彼を振り返る。


「あ、あの……どうぞ」


先に家に足を踏み入れ招き入れようとする。
西嶋さんは、なんにも言わないで狭い玄関に立つと、パタンとドアが閉まった。

先に靴を脱ぎ、一歩足を動かしたときに、ようやく西嶋さんが口を開いた。


「いいよ。今日はここで。なの花ちゃん、病人なんだから休まなきゃ」
「でも」

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