イジワル上司に恋をして
振り返ると、いつも柔らかい表情でいる西嶋さんが、すごく張り詰めた顔をしている。
その緊張感に引き摺られるように、わたしも言葉を呑みこむ。
どちらもひとことも発さないでいると、彼のその固い表情は、実は怒っているのかもしれない、と思えてきて……。
「……あ、の……今日はこんなことになってしまって……本当にすみませんでした」
目を見て言わなければならないことだってわかってる。
でも、どうしてもそれが出来なくて、それをごまかすように頭を下げたまま。
なにか、西嶋さんなら声を掛けてくれるはず……。
この期に及んでそんな甘い期待を抱いていると、思った通り、彼は言葉を口にした。
「いや。なの花ちゃんが謝ることなんてないでしょ?」
優しい声掛けに、ゆっくりと顔を上げる。
勇気を出して彼をもう一度みたけど、表情はやっぱり変わってない。
なんだか落ち着かないわたしは、自分の手を合わせるように組み、唇を噛んだ。
どうしよう。こういうときってどうすればいいの?
困っていると、西嶋さんが低めのトーンで話し始めた。
「……なの花ちゃんはなにも……だけど……あの人」
「え……?」
視線を斜め下に落とした彼は、なにかを思い出すように考えてるみたいだ。
頭の中でなにを思っているのか。そんなこと、当然わからないわたしは、この微妙な雰囲気にドクドクと心臓を逸らせるだけ。
「覚えてない……?」
「えっ。な、なにを……」
「なの花ちゃんが倒れた前後のこと」