イジワル上司に恋をして

初めは二重人格で、表面(おもてづら)のいい最悪上司。それは今でも基本的に変わることはないんだけど……。けど。
目を強く閉じて、ここ最近の黒川を思い返す。

ほんの一瞬。本当に、見過ごしてしまうほどの瞬く間――。

笑って見せたり、突然素直に謝ったり。
戸惑った顔をして、わたしを見たり――。

たまに垣間見れるヤツの〝ホンモノ〟が、いつの間にかわたしを妄想の世界から現実に引き戻してた。
悔しいくらいに、アイツのことが頭から離れなくなってたのかもしれない。


『気になってんじゃないの?』


由美の言葉が聞こえた気がした。

気になってなんか……。そうやって、強がっていたけれど。
だって、アイツが気になるなんて信じたくなかったし、認めたくなかったし。

それなのに、実際は……考えないようにすればするほど、意識を奪われていく。

こうやって、自分の気持ちに正直に向き合って考えたって、やっぱりアイツのいいとこなんて上げられなさそうなのに。

ちょっと顔がよくて、ちょっと頼り甲斐があって。
……でも、言い方は憎たらしいけど、仕事とか、ちゃんと認めてくれることもある。

〝自分はなんでも持ってます〟みたいなヤツだとばかり思ってたけど、今日の話を聞いて見方が変わってしまったせいかもしれない。
同情かもしれない。

だけど、確かにわたしはあの時、キスを想像した。


「……はぁー……」


普段使わない思考回路を使った感じ。
まして、今は体調が微妙なのだから、余計に疲れる。

だめだ……。とにかく、寝よう。明日は休みだし、とりあえず今は、これ以上何も考えずに……。


< 244 / 372 >

この作品をシェア

pagetop