イジワル上司に恋をして
――そうだよ。だって、タイミング的にも一致してるし。
吉原さんに再会して、そう言ったんだ。
どのみち、香耶さんでも吉原さんでも。わたしが敵うような女性(ひと)じゃないよ。
行き詰った答えに無意識に溜め息が出る。
そこでようやく湧いたお湯に気付くと、ポットを手にしてカップに注いだ。
立ちのぼる湯気の中で、暗い気持ちが晴れることはなく……。
こんなことなら、変にアイツの素顔や過去なんかに触れなければよかった。
……って言っても、自ら首を突っ込んだ記憶はないんだけど。
せっかくの好天気だというのに、いつまでも辛気臭い顔で葛湯を飲むと、再びゴロゴロと現実逃避をしていた。
あれだけ寝たはずなのに、疲れなのか風邪のせいなのか。
二度寝してしまったわたしを起こしたのは、一通のメールだった。
寝ぼけ眼でぼやけた視界に画面を映す。
【体調はどう?】
たったひとことのメール。
だけど、文章の長さなんか関係ない。ひとことだとしても、このメールの重みは相当だと感じる。
昨日、あんな別れ方をしたのに、向こうからこうしてメールをくれるなんて……。
なにからなにまで西嶋さんにリードされてるように思えて、情けなくなる。
ぎゅっと携帯を握りしめて深い息を吐き、すぐに返事をしようと思った。
【ご心配お掛けしました。もう熱も下がったし、大丈夫です】
【昨日はすみませんでした】……と、作成画面で打ち込んだけど、少し考えて消した。
メールを送信すると、次の返事がくるのかどうかでドキドキと緊張する。
西嶋さんは、きっと……いや、絶対返事くれるはず。
その読み通り、数分後にわたしの携帯は再び音を上げた。
【それなら良かった。でも、なにも食べてないんじゃない? ……実は、近くまで来てるから。もし、体調良ければお見舞いに行っても、いい?】
ドキッとしたけど、すぐに冷静に考えるようにして、目を閉じる。
こういうことは、延ばし延ばしにしてもだめだ。
本当はこっちからで向かなきゃならないことだけど、そこは許してもらおう。
そうして、【待ってます】と返信したら、落ち着かなくて寝てなんかいられなくなった。