イジワル上司に恋をして

「どんなのがいいですか? ……っていっても、会社と違って茶葉の種類は大してないですけど」
「なんでもいいよ。なの花ちゃんが好きなもの」
「……ミルクティとかでもいいですか? 好きなんです、わたし」
「うん」


にこりと頑張って笑顔を作ってキッチンに入る。
これから一体どんな話になって、どういうふうな流れになっていくのかまるで予想出来ない。
……でも、自分のしなければならないことは、恋愛ベタなわたしでも理解しているつもり。


コポポ、とミルクティをカップに注ぎ、両手にふたつのカップを持って西嶋さんの元へと向かった。
コトリ、と小さめのテーブルにそれを置くと、ふわりと温かに香るミルクティが、少しわたしを落ち着かせてくれた。

ソファに座ってもらってる西嶋さんの横顔が見える位置に、ぺたりとお尻を床につけた。


「病み上がりなのに、ごめんね。ありがとう」
「あ、いえ」
「いただきます」


彼がマグカップを手にするのを真似るように、自分もカップを手にした。
でも、口をつけることをせずに、西嶋さんの反応を待つ。

白い湯気の向こう側に目を伏せるようにして、そっと口へ運ぶ姿を盗み見る。
コクリと喉が小さくなったのを見たら、彼の目がわたしに向けられるのを感じ取って慌てて目を逸らす。
そして、見つめていたことをごまかすように、自分も手にあるミルクティを口に含んだ。

この沈黙を、どんな言葉で破ればいいのかわかんなくて。
自分という人間はとことんズルイ。
ゆっくりと口の中のミルクティを転がすように、敢えて口が自由にならないようにしているのだから。

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