イジワル上司に恋をして
「――オマエ、今なんか、余計なこと言おうとしたろ」
なっ、なぜ、それを!
そして、つい今さっき香耶さんに話した感じと、思いっきり違ってるんですけど!
「べ、別にわたしは……」
「つまらない詮索はしないことだな。仕事と、体が大事なら――――なんてな」
ひっ……捻くれてる……完全に。
職場だからだろう。決して近くには寄ってこない。そして、わたしにしか聞こえない声で、ほんの少しだけ、肩を揺らして笑う。
その顔は、お世辞にも爽やかな笑顔だとは言えない。
ああ、神様。どうしてこんなことに……。
ていうか、こういうのって――。
「……セクハラ……そして、パワハラ……」
思わず、デビル黒川を凝視して、口から漏らしてしまった。
それは、“職場(ここ)なら安全”と、どこかで油断してたから。
だけど、この男はそんなわたしの浅はかな考えをいとも容易く崩壊させ――。
「その口。今、ここで塞いでやろうか?」
たった一歩、横に来ただけなのにこの威圧感。
自信に満ちた瞳に、わたしが間違ってるわけじゃないのに萎縮させられる。
ガタタッと、後ずさりしてパイプ椅子を倒しそうになると、黒川の手が素早く伸びる。
必然と、わたしと黒川は、密着寸前状態だ。
「……誘ってんの?」
そのあり得もしない言葉を全否定したくても、椅子とソイツの胸に挟まれたわたしは、その余裕がなかった。
ぱくぱくと口だけを動かすわたしを見下ろして、デビル黒川はデビルらしい笑みを浮かべて囁いた。
「ま、んなこと出来るなら、あんなガキみたいな妄想なんかしないよな」
こ、ここここ、このっ……、性悪男め!!
むかつくくらい綺麗な顔で、目を細めてわたしを見たら、そのままヤツは事務所スペースへと消えていった。