イジワル上司に恋をして
「……なんか、自分ちで作って飲むのと違う気がする」
ぽつりと口から離したカップに視線を落として言った言葉に、顔を上げた。
「あっ……。き、きっと、お鍋で沸かして茶葉を淹れてるから……かな」
「へぇ。初めて聞いた。そんな手間掛けないもんな、確かに」
「わ、わたしも! 今の職場になってから――」
……あ。
地雷を踏んでしまった。
わたしの〝職場〟の話になれば、必然的にヤツという存在がわたしたち二人の頭を掠めるのは間違いない。
それを、自らの失言でその機会を招いてしまった。
西嶋さんは口を噤んでしまって、わたしも、上げたばかりの顔をちょっとずつ下に向け始めてしまっていた。
……いや。でも……遅かれ早かれ、だ。
こうなったら、きちんと自分から話をしなければだめだ。
徐々に俯いていた頭をグッと堪え、逆に再び視線を上げると、西嶋さんを見た。
パチッと目が合ってしまったことに、内心ものすごく動揺していたけど、どうにか頑張ってその姿勢を保った。
「あのっ」
「なの花ちゃんてさ」
グッと膝の上の手を握り、思い切って切りだした直後に重ねられた声。
目を丸くして西嶋さんを見上げると、彼は手にしていたカップをゆっくりとテーブルに置いた。
静かに波打つミルクティを見つめながら、薄らと笑みをたたえた唇が開く。