イジワル上司に恋をして
「前から、表情がくるくる変わって面白い、って思ってた」
「え!」
似たような指摘はわりと頻繁に黒川からされる。
けど、どうせあの意地悪男の言うこと、ってどこか高を括ってた。それはどうやら違ったみたいだ。
そう思うと、恥ずかしくて両頬を手で覆う。
「感情が汲み取りやすい……っていうか。うまく言えないけど。そういうなの花ちゃんと一緒にいたら、どんななのかな……って」
落ち着いた声で、まるで思い出話をするように。
穏やかな顔は、今直面していた問題を忘れてしまいそうになるほど。
「……で、まだほんの少ししか一緒にはいないけど。それが、思った以上に楽しくて。
……だから、ますますなの花ちゃんが好きになったんだけど」
柔らかく目尻を下げる西嶋さんと目が合ってしまった。
自分には勿体なさすぎる言葉に、なにをどう返せばいいのかわからない。
ただ、顔を熱くしながら、頬にあててた手で目を覆いたい衝動に駆られてしまう。
ドクドクと心臓を鳴らしたまま。大きくした目に、西嶋さんの顔が微妙に変化したのが映った。
「それが仇になった……って言い方はヘンだけど……一緒の時間が少ないおれでも、なの花ちゃんの気持ちがココにない、ってときはわかっちゃう」
それまで、あんなに早い鼓動を打っていたはずの心臓が、ウソみたいに止まった……ように感じてしまった。
この感覚は、今まで生きてきて、似たような感覚を経験してる。
手に入れてた力を、フッと緩め、たちまち羞恥心が満ちていく。