イジワル上司に恋をして
昨日? 確信……って、具体的にどのことを指してるんだろう。
「まぁ、でも。それよりも、おれにはなの花ちゃん自身の気持ちが肝心なんだけど」
ちらりと黒眼を向けられて、ドキリと息を飲んだ。
あ……そうか。やっぱり、昨日わたしが西嶋さんが近づいてきたときに突き飛ばした行動のことを指してるんだ。
それが〝確信〟の理由。
グッと手を握りしめ、唇を少し噛む。
それから、思い切って顔を上げて口を開いた。
「昨日は本当に、ごめんなさい……! 咄嗟のことで、自分でも……びっくり、して」
それは嘘じゃない。
突然のことに、驚いた。それは、距離を縮められそうになったことと、アイツがわたしの中に存在しているということに。
「……びっくり、しただけ? おれはちょっと違うと思ってたけど」
「……す、すみません……なんか、まだ……よく、わからなくて……」
今どうしたらいい、とか、自分の気持ちはどうだ、とか。
当たり前だけど、経験不足が顕著に出てしまってるこの状況。
普段都合のいい妄想ばかりしてるから、結局こうなってしまうんだ。世の中自分の都合のいいようにだけ転がっていくわけなんてないんだから。
今のわたしが出来ることと言えば、懸命に目を逸らさないように顔を上げるだけだ。
「怒んないから、聞かせてよ。今のなの花ちゃんのこと」
目の前の彼は、確かに問い詰めたり責めたりなんてするようには見えない。
そんな彼に言われてしまえば、言わざるを得ない。
それは、自らがつきあうことにOKしたわたしの義務に思えたから。