イジワル上司に恋をして
「……気付いたら、頻繁に脳裏に浮かんだりするんです。……アイツの言動とかが」
由美に言ったことと同じことしか言えない。
「西嶋さんに、アイツがどう映ってるかはわかりませんけど。わたしの中では、かなり腹黒でムカツク奴……だったんです」
「……『だった』ってことは、今は……?」
「今……今、は……」
けど、由美に話をしたあとに起きた些細なことが――。
「なんか、ちょっと見方が変わったかもしれません。だから余計に、調子狂うっていうか……」
……わたしをこんなふうにおかしくさせた。
「……あの人が、好きなんだ?」
「すっ?! す、すす、好き?! わたしが? アイツを?!」
「え? 違う?」
「――ちっ」
ガ、ウ……? 違わない? え? こういうのって、どこから〝好き〟の境界線を越えることになるの?!
顔を赤くしたかと思えば、すぐに険しい顔をして。しまいには悩むように大きく首を捻る。
まさに百面相をしていたわたしを見た西嶋さんは、呆気に取られた顔をしたあとに、「ぷ」っと吹き出した。
「ああ、ごめん。つい笑っちゃった。本当に感情が顔にストレートに出るから」
「そっ、そんなにですか!」
「うーん。たぶん」
ふわりとした笑顔で、肩を下げながらさらに彼は笑った。
「なんか、無自覚でそういう反応されると、毒気が抜ける」
毒気?! 西嶋さんが? 毒??! それこそありえないでしょ!
「あ。今、『意外』みたいなこと思ったでしょ」
「えっ」
「ホラ。そーいうことだよ」