イジワル上司に恋をして
なんか、これからどんな顔して生きていけばいいのかわかんなくなってきた……。
左手で前髪を抑えるようにしたまま、視線を下に向けたわたしに西嶋さんが続けた。
「おれだってそれなりに黒い感情は持ってるよ」
その声は、聞いたことのない声。冷やりとするような、体が硬直させられるような……。
びっくりしたのはそれだけじゃない。
その声と同時に彼はわたしの前にしゃがみこんで、右手を髪にさし込んできた。
優しいと思っていたはずの彼の瞳の色が濃く見えて、別人のように感じてしまう。
正直、『こんな西嶋さんは知らない』と、後退りたくなった。
「――こんなふうに」
もう片方の手が顎に触れたかと思ったら、クイッと上を向かされる。
鼻先が触れ合うまであと僅か……そう感じていても、逃げ場がない。
ぎゅっと目を固く閉じる。
……でも、想像していたような感触もなにも感じなくて疑問に思って、うっすらと目を開けた。
「……君がもう少し、ズルイ人だったら……おれも心おきなくこの続きが出来たと思うんだけど」
するりと添えられた右手が滑り落ち、顎を持ち上げられてた手は名残惜しそうにゆっくりと離れて行った。
「そこまで素直になられると、逆に罪悪感感じそう」
ふっと鼻で失笑するように、西嶋さんは言った。
わたしには、西嶋さんが今したことと、言ってることの意味を100パーセント理解出来てないと思う。
けど、すぐ目の前で思い切り項垂れてる彼は、やっぱりすごく優しい男の人なんだってことだけはちゃんとわかる。
言葉通り、全身の力が抜けきったように頭を垂れて動かない西嶋さんに、なにか言葉を掛けようと懸命に頭を動かす。
「あ、あの」
「ねぇ」