イジワル上司に恋をして
態勢はそのままの西嶋さんに呼びかけられ、ぴくりと姿勢を正す。
すると、ゆっくりと深く俯いていた顔を上げていく西嶋さんの目と目が合った。その犬のような人懐っこい瞳で彼は言う。
「今のでちょっとは男として意識してくれた?」
「……え、と……」
こ、これはどう言えばいいんだろう?
どの答えが求められてるのかわかんない。……でも、もうここまできたら、開き直るしかないっ。
「ほ、本当のことを言うと……少しだけ……ちょっと怖かったですけど」
こんなときにまで、アイツの何気なく言ってた言葉が頭を過ってた。
『優しそうに見えて、西嶋クンも男だからなぁ』
悔しいけど、ムカつくけど。
本当にあんたの言うとおりよ!
そんな回想も交えたせいで複雑な思いになったわたしを、西嶋さんは丸い目をさらに丸くさせて見た。
そのあと、ふっと目を細めて安堵したように笑った。
「よかったぁ……」
「えぇ……?!」
「あれでももし全くダメなら、完全に見込みナシだと思ったから」
ひとり笑みを零して、大きく足を広げて寛ぐ姿を見せる。
呆然とその姿を見つめていたわたしに気付いた西嶋さんは、「ああ」と上体を少し起こして向き合った。
「怖がらせてごめん。だけど、すぐに気持ち切り替えられなさそうだから、ちょっとした賭けというか、ね」
「賭け……って?」
爽やかに笑う姿は、もういつもの西嶋さん。
ぽかんとしながら聞き返すと、眉を下げて落ち着いた声色で言う。