イジワル上司に恋をして
「入るの? 入んないの?」


あー、つかれた。
つかれた、疲れた、ツカレタ。

それもこれも、アイツ……黒川がいるせいだ。

あのあと打って変わって、“憧れ上司”に戻ったペテン師。そいつに、業務上とはいえ話し掛けられただけで、変な緊張が走ってやりづらいったらない。


わたしは制服を脱いで着替え終わると、溜め息をついた。
力なくロッカーを閉めると、モヤモヤとした気持ちのまま、職員用出入り口に向かった。


自分の白いスニーカーを見つめながら、体が覚えている道を歩いていく。


ヤツのおかげで、今日は全然ダメだったなぁ。
大きな失敗はしてないけど。でも、仕事のノリっていうか、流れっていうか。スムーズにことが運べなかった感がしたし。

当然、余裕のないときに、何かを思い耽る時間も取れなくて。ずーっと、お客さんと、アイツの視線の緊張感にやられてた。

いつもなら、もっと楽しいことを考えて帰路につくのに。
今日なら、不本意にも頭の中にはアイツが占領しかけてて、幸せな妄想すらする余地も与えられないって感じだ。


無意識に口を少し尖らせていたわたしは、外に出る扉に手を伸ばし、ガチャリと開けた。

職場から出たら、気持ちを切り替えて、一歩踏み出して帰ろう。

そう思ってたのに……!


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