イジワル上司に恋をして
「ごめん、鈴原さん。これ、今電話来た内容なんだけど、黒川部長探して渡してくれる? たぶん2件の式場行き来してると思うから」
「……はい」
違う! 別にパシリのような展開に不服なんじゃない!
アイツを探してまで会いに行くっていうことがちょっと面白くないって思ってしまっただけで……。
幸いそんなわたしの心境に気付かないくらいに忙しそうなその先輩スタッフは、ばたばたとメモを渡して居なくなった。
「はぁ……」
こら。なの花。
昨日誓ったばかりじゃない。
上辺の気持ちだけに惑わされないで、自分の深層心理と向きあうようにって。
……ほんと、わたしがアイツのことを男として気にしてるのかなぁ。
あの美形な顔が近づいたり、いちいちドキッとさせるような行動したりするから、ほんの一瞬意識しちゃってるだけ、とかじゃないのかなぁ。
……でも、西嶋さんが近づいてきたときにはガードするように反応したしな……。
重い足取りで階段を昇りながら、答えの出ないことを延々と考える。
足元だけ見てたし、階段と言うこともあって、前方に人が立ってることに気付くのが遅れた。
ようやく視界に靴の先が入り、間近に人の気配を感じて見上げた時には逃げ場のない範囲。
「あっ……」
元々ある身長差に、さらに階段分が上乗せされて。
けれど、見上げる首の痛さなんか飛んでしまうくらいに驚いたわたしは、切れ長の瞳で見下ろす顔をただ見つめた。