イジワル上司に恋をして
「な、なんで……。どうして、雨なんか降ってんのよー……!」
まるで雨音に気付かなかったわたしもわたしだけどさ。
でも、仕方ないじゃない。耳に音が届かないくらいに、アイツの呪縛がいろんな神経を支配されてるんだから!
『このくらいなら、駅まで走ろう』とか、そんな生易しい雨じゃなくて。
ザァァと激しい音と、目の前をちょっとした小川のように流れる光景が、そんな気を完全になくさせた。
えぇー……今日って雨予報だったっけ? いや、でも確かに曇ってはいたけど。
あ、今朝はだるくてやる気しなくて、天気予報チェックなんか忘れてたんだ。
それもこれも――――。
「アイツのせいじゃん!」
「『アイツ』って?」
すぐ後ろから聞こえた返事に、背筋がピンと伸びる。そして、振り向かなくても簡単にその人物が誰かなんてわかった。
今の今まで、頭から離れなかった、アイツだ。
「な、ん……で」
ここにいるんでしょうか。
あんな裏の顔を持ってても、ブライダルサロンの部長には変わりないんですよね? なんでこんな早い時間に、この人は帰るの?
こんなこと言っても自慢にはならないけど、わたしは契約社員だし、ショップの方だし、ブライダルとは違って、残業と言うものはない。
そう! ブライダルって、残業をたくさんしてる部署!
そして今の時刻は、午後の20時半。こんな時間に。なぜ。