イジワル上司に恋をして
手を顎に添えて考える仕草をしながら言った美優ちゃんを、呆然と見つめた。
「す……き?」
「え? だってそんなに気になること多いんですよね? それに、最近の鈴原さん、仕事中前にも増してボーッしてること多い気がするし。それって好きってことですよ! ゼッタイ!」
……なぜ、本人でもない人が、「ゼッタイ」だなんて言えるんだろう。
呆気に取られながら、そんなことを思った。
でも……確かにちょっと、頷けるようなこともあるような……。
気になることは、さっき思ったとおり幾多もある。
仕事中も、別に故意にそうしてるわけじゃないんだけど、どうしても同じ職場ともなると視界に入ることも構われることもあるから。
ボーッとして……っていうのも、それは前からの妄想癖……。
そこまで考えてふっと過る。
その〝妄想〟って、前よりも少なくなったかも……。しかも、その少なくなった妄想内ですら黒川のヤツが出てくることが多い……?
口元を隠すように片手をあてながら、なぜかドキドキと心臓が動き出す。
「じゃあ、例えば、その人が他の女の人と話したりキスしたりしてたら……どう思います? あたしはゼッタイ嫌です!!」
アイツが、誰かとキス……したら?
そんなこと考えたこともなかった。
いつも翻弄されるばかりでそんなこと……。
香耶さんの告白に遭遇しちゃったときは、ただびっくりして。でも、そのあとは……。
無言の時間を変に勘ぐって、それで……モヤモヤと……いい気分ではなかった。
そして、過去にキスもそれ以上の関係もあったであろう香澄さんに対しても、劣等感をこんなに感じるわけは……。
「好きだから」
美優ちゃんの言葉と、自分の心の声がリンクした。
――ああ。まさかこんなことが起きるなんて。
こんなこと、少し前のわたしには想像も、妄想も出来なかったことだ。
わたしがアイツを好きだなんて。