イジワル上司に恋をして
「……いつからMになったのわたしは」
とっくに美優ちゃんは着替えて帰った後のロッカー室でぼそりと呟いた。
帰り支度をトロトロと済ませ、裏口に向かうまでの道のりで携帯が鳴った。
出口まで一直線のところで歩きながら携帯をみた。
【受信メール1件:西嶋さん】
ピタリと一度足を止めてしまった。
片手で持っていた携帯を、両手で握り、その名前を瞬きせずに見つめる。
西嶋さん……? 一体どんな内容のメールなんだろう……。
昨日のことを思い出し、答えの出ないことにも関わらず頭を回転させる。
ドキドキと跳ね上がった心臓が、少しだけ落ち着いてきたのと同時に一歩足を踏み出した。
そして、ガチャリとドアを開け、外に出たところでまた立ち止まる。
ずっと手元の携帯に一点集中しながら、勢いで画面をタップした。
【お疲れさま。昨日はお邪魔しました、ごちそうさま。なの花ちゃんのお茶、本当に美味しかったから、またお茶ごちそうになりに行きたくなった】
よくある挨拶のようにも受け取れるけど、本心で言ってくれてるというふうにも取れるそのメール。
【なの花ちゃんさえよければ、また近々食事でも】
なんか、もう、胸が苦しくなる。
恋愛って、わくわくしたりきゅんとしたりするだけじゃないんだ。
わたしが日々妄想していたものは、所詮妄想なわけで。自分の都合のいい展開と、都合のいい解釈しかありえなかった。
自分は迷いなく相手を好きで、相手もわかりやすいほどに自分を好いてくれている。
だけど、現実にはそれよりもすれ違いの方が遥かに多いのかもしれない。
嫌いなわけじゃない。好意を寄せられると、嫌いじゃない相手なだけに、素直にうれしい。
けど、相手と同じだけの感情を持っているかといわれたらそうではない。
だから、時と場合によっては、撥ね退けなければならないこともきっとある。
「へぇ。いいカンジの彼がいるんじゃない」