イジワル上司に恋をして
背後からの声に、びくりと大きく肩を上げた。
スルッと携帯を落としそうになりながらも、なんとかそれを免れて振り返る。
「――よっ……」
さらっとした髪を耳に掛け、わたしの携帯から視線をあげたのは吉原さん。
妖艶な笑みは、女のわたしですらもドキリとしてしまうほど。
いや! いやいや! 今はそんなこと言ってる場合じゃなく!
「か、勝手に見ないでくださいっ」
「見えたのよ」
しれっと悪びれもせずに言う吉原さんは、肘を覆うように腕を交差させながらにこりと笑った。
「優哉とは本当に付き合ってるわけじゃないんだぁ。ふーん。じゃあ、片想い……か」
「片想い」……? 誰が? もしかして、わたしが?
そんなにわかりやすいの……?!
おどおどとした視線を向けて、すぐ隣に立つ吉原さんを仰ぎ見る。
初めの印象は、すごく美人で聡明な印象だった。でも、この前からは、なんか怖い……っていうか。関わりたくないのに、ずるずると引き込まれてしまう感じがする人。
一線を引くような態度のわたしを見て、吉原さんはクスッと笑いを零した。
「あなたが今出てきたってことは、もう少ししたら優哉も来るかしら?」
「……吉原さんはなんでアイツに――」
『会いにくるの?』って、喉元まで出かかったけど結局口には出来ない。
そんなこと言っちゃったら、ますますこの人が怖くなりそうで。
だったら早く、余計なこと言ったりしないでさっさとこの場から立ち去ればいい。
実際わたしは関係ないんだから、あとは本人同士で思う存分……。