イジワル上司に恋をして

「『なんで』? 〝会いたいから〟よ」


『例えば、その人が他の女の人と話したりキスしたりしてたら……どう思います?』


頭の中に、さっきの美優ちゃんの問いかけがフラッシュバックされる。
そして、今咄嗟に出たその答えが……。

『なんかヤだ』――だ。


それはわたし以外の女の人と一緒にいるという部分でなのか、それとも相手が昔関係のあった〝吉原さんだから〟なのか。
そこら辺ははっきりとしないままだけど、なんか、嫌。

モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、モデルのように小さい顔の吉原さんをじっと見ていた。
その視線を受けた彼女は、ゆっくりと口角を上げてその唇を悩ましげに開く。


「……優哉から、どこまで聞いてるの?」


その質問に、ギクリとする。
吉原さんは、眉を下げ、切ないような目で淋しげに笑ってた。


「優哉はねぇ……当時優哉の兄と付き合ってたわたしに……言い寄ってきたの」


なんだろう、これ……。
すごい気になる……だから、聞きたくないのに、耳も塞げず足も動かさずに……ただ、その彼女の瞳に吸い込まれる。


「一度じゃないわ。二度も、三度も……彼氏との関係を崩壊させられた」


そんなアイツ……知らない。想像できない。
わたしが知ってるアイツなんて、ほんの少しで……吉原さんはアイツのもっといろんなところを知ってる。


「……でもね。そんな優哉を拒めなかった。気付けばわたしも優哉を好きになってたの。彼氏である兄に嫉妬するくらいに好きでいてくれた……って思うと素直にうれしいと思ったのよ」


信じられない……さっき、なんとなく自分の気持ちを認めてはいたけれど。
本当にこんな感情が湧いてくるなんて……。


「再会して、まだ忘れられないでいたんだって思ったわ。だから、今も――」


――――嫉妬。


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